夏の合宿奮闘記 2日目

2025年8月6日

 6時半に起床。塾生の読書感想文3つの添削を15分程で終え、寝ている彼らを起こしに行く。何人かは既に起床していたが、他は未だに布団の中だった。それよりも驚いたのは、彼らの部屋がどちらも冷蔵庫の如く寒かったことだ。設定温度が19℃だから当然である。自室の設定は28.5℃なのでほとんど10℃差だった。19℃といえば最近のエアコンの最低温度だが、昔はたしか16℃まで設定できた。ともあれ、あれほどに冷えた部屋でよく寝れたものだと彼らに文句を言いつつ、自分は子供時代に16℃に設定して寝ていた事実は伏せておいた。

一階に降りると食堂のスタッフさんはせっせと大量の朝食を用意していた。着席しても中々配膳が始まらないのでおかしいと思ったら、8時でお願いしていたことをすっかり忘れていた。配膳まではまだ30分あった。中央フロアに出た我々は、それぞれ時間をつぶした。車の中にフリスビーが転がっていたことを思い出し、持ってくると男子どもは喜んで参加した。さっきまで眠気眼だった彼らは、30℃以上の野外でペアになってフリスビーを投げ合った。ラジオ体操よりも激しい朝の運動でみんな汗まみれになった。

8時になって配膳が始まり、和食・洋食を各々食べた。彼らのうち数人は、朝食自体食べないらしい。それなら尚更今回は良い機会である。僕は自分のパン朝食とコーヒーをしっかりと胃に流し込んだ。9時になると同時に研修室へ移動し、早速勉強を開始する。朝から運動して朝食をしっかり食べたおかげか、全体を見渡してもみんな目が覚めていた。小学生陣は20ページから30ページのワークを3時間で消化し、中高生陣も進度は遅いが苦手な国語文章読解や、数学の文章問題とにらめっこした。それぞれ解説しつつ、合理的な進め方の説明を施した。

12時になって再び食堂に降りていくと、少年サッカー集団が先に配膳に列をなしていた。今回唯一の昼ごはんは、それぞれ軽食メニューから予め選んでいたものが配膳される。豚丼、天丼、きつねうどんにカツカレー。待ち時間にも彼らはさすが、指をつかったゲームを始めてその時間を埋めた。食事を終えて余った30分程は、それぞれ自由に過ごした。

13時からの午後の部はなかなか集中力続かず、注意してもキリが無かった。彼らにとって1日7時間の勉強は辛いところはあるかもしれないが、こちらも想定していたより遥かにきついことが肌で分かった。指導時間以外に塾生と関わることは、考えてみれば8年目にして初めてのことだった。初めてどころか、3日間ノンストップで彼らの溌剌するエネルギーを一人で受け止めなければならないことを、ほとんど勘定に入れ忘れたのである。元気をもらっているような、吸い取られているような、はっきりと言語化し難い感覚である。愛娘と過ごすときの疲労感とはまた異質である。

17時に終わるころには心身ともにフラフラだった。生徒たちは号令とともに一斉に研修室から飛び出していった。嵐が去ったような研修室を原状回復し、自室に戻ったころには思わず鍵をかけ、ベッドに30分程倒れ込んでいた。聴覚以外の全てをオフの状態で寝ていると、ニホンザルのような鳴き声と走り回る音がしきりに聞こえた。彼らは7時間の拘束と勉強に、まるで疲れ果ててなどいなかった。むしろ拘束によって抑圧されたエネルギーがようやく解き放たれたのである。夕食まで1時間、彼らは遊び道具一切なしに、甲高い雄叫びをあげながら走り回り続けた。その声をよそに、僕はただベッドに横たわり、沈黙していた。

18時、のろりと立ち上がり食堂に向かった。毎度の如く食事はすでに準備ができていた。今日は昨日とは異なった夕定食だった。ごはん、みそ汁、チキン串カツ、蒸し野菜、ハンバーグと玉ねぎ、ぶどうゼリーなど。食事を前にして小学生の一人が「このあと何もすることがないからゆっくり食べよ!」と言った。なんてことはない彼らのそのような発言に僕はときどき、愛らしさを感じざるを得なかった。今朝も椅子に座って外を眺めていると、小学生の一人が「先生、カマキリおる!捕まえてきていい?」と訊ねた。そんなことにいちいち許可を得ることのおかしさと素直さ。そこには人目も、論理的思考も、恥も介在しない。体からまっすぐに発言する彼らの言葉は、論理にまみれた僕の思考を中和してくれる、そんな気がするのである。またその愛らしさは、それがいつか必ず消え失せるという無常によって裏付けられているのである。

食事を終えて一足先に自室に戻り、再びダウンした。気が付くと気を失ってから30分ほど経っていた。食堂へ戻る道中、高校生陣は食事が足りなかったのか、熱いカップヌードルを丁重に持って歩いてきた。食べ終わったらすぐに風呂に入るように伝えた。再び自室に戻って記録を綴っていると、ある塾生の親御さんから電話を受ける。なんと差し入れをしていただけるとのことで、ものの1時間弱ほどでロビーに到着された。女子たちとお迎えに上がり、ありがたく差し入れを頂戴した。風呂から上がってきた生徒がUNOをやりたいと言って呼びに来た。僕はPCを閉じ、それに従った。全員がもれなく男子部屋に集っており、彼らは頂いたアイスクリームを貪り食べていた。

思い返してみると、スマホを持ってきた高校生陣がそれをいじっている姿をほとんど見ることはなかった(充電器を忘れたことも要因ではあるが)。当然、隠れて就寝前に触っているのだろう。今朝も同室の塾生が、彼らが寝る前にゲームをしていたことを冗談交じりで密告してきたりもした。それでも不思議と彼らに対して僕は、怒る気も説教する気も起こらなかった。それは諦めからくるものではなく、彼らがほかの小中学生の面倒をよく見て、積極的にコミュニティーに参加しようという姿勢が一貫して感じられたからだろう。別の言い方をすれば、彼らにはそういう姿勢が「まだ残されている」のだ。彼らの、昨日知り合ったばかりの後輩たちに接する姿勢は、見ていて微笑ましかった。 それから僕たちは就寝時間を超えて11時までUNOで盛り上がった。その後1時間ほど記録を付けたのち、12時ごろに寝床に着いた。

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